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医師・歯科医師のバイト収入は事業所得として青色申告できるのか

医師・歯科医師のバイト収入は事業所得として青色申告できるのか


医師・歯科医師の方々が医院で勤務する場合、一般的に医院と医師・歯科医師の間で雇用契約を結び、会社員の方と同様に給与所得として所得税の計算をおこないます。

 

しかしながら、医師・歯科医師の方々は、メインで勤務する医院の他に、アルバイトとして、他の複数の医院で業務をおこなうケースが少なくありません。

 

今回は、このようなアルバイト収入について、給与所得として源泉徴収の対象+給与所得控除のみとなるのか、事業所得として必要経費の計上及び青色申告特別控除の適用を受けることができるのか、という点について綴りたいと思います。

事業所得・給与所得とは


事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得をいい、「総収入金額△必要経費=事業所得」として計算されます。

 

一方で、給与所得とは、勤務先から受ける給料、賃金、賞与などの所得をいい、「収入金額△給与所得控除額=給与所得の金額」として計算されます。

 

事業所得・給与所得ともに収入金額がベースとなる部分は同じですが、控除する金額が必要経費であるのか、給与所得控除額であるのかが、大きな違いとなります。

 

事業所得の計算に使用する必要経費とは、その所得を得るために必要な経費のことを指し、医師・歯科医師のアルバイト収入に関するものでいうと、以下のような経費が挙げられます。

 

  • 医院までの旅費交通費
  • 仕事関係者との交際費・会議費
  • セミナーや学会の参加費・年会費
  • 書籍購入費
  • 業務用PC・スマートフォン・車両の購入費(減価償却費)
  • 自宅兼事務所の家賃・水道光熱費など

 

ざっくり言うと上記のような経費を収入から差し引くことが可能です。

一方で、給与所得から差し引くことができる給与所得控除額は給与収入の大きさに応じて自動計算され、195万円で頭打ちとなります。

どのような場合に事業所得となるのか


控除額を考えたときに必要経費の額が大きくなる場合は、事業所得として申告をした方が所得の金額が少なくなりますが、ある収入を事業所得として申告するのか、給与所得として申告するのかは、納税者が自由に決められるものではありません。

給与所得は、雇用契約に基づき雇用主の指揮命令系統下で労務を提供することにより得る収入である一方で、事業所得は委任契約・請負契約等に基づき、自らの判断で業務を提供することにより得る収入となります。

したがって、医師・歯科医師の方々がアルバイトで得た収入が事業所得になるかどうかは、①形式面(契約形態)と②実質面(実際の業務環境)から総合的に判断する必要があります。

国税不服審判所の裁決例


国税不服審判所の令和3年11月19日裁決では、医師が複数の病院等から得た健康診断業務に係る収入により生じた所得を事業所得として所得税の確定申告書を提出したものについて、以下の要素を総合的に判断した結果、給与所得に該当するものとして請求人(医師)の主張が棄却されました。

 

  • 自己の計算と危険によってその経済的活動が行われているかどうか、すなわち経済的活動の内容やその成果等によって変動し得る収益や費用が誰に帰属するか、あるいは費用が収益を上回る場合などのリスクを誰が負担するか
  • 遂行する経済的活動が他者の指揮命令を受けて行うものであるか否か
  • 経済的活動が何らかの空間的、時間的拘束を受けて行われるものであるか否か

総合的な判断


医師・歯科医師の方々が得る収入が事業所得に該当するかどうかが納付税額に多大な影響を与えるにもかかわらず、その判断は上記の要素を総合的に考慮して、個々の事情に照らしながら個別具体的に判断されることになります。

 

判断に迷われる場合には、専門家に相談の上、過去の事例や原理原則に照らして判断・アドバイスを仰ぐことが重要であると考えられます。

 

当事務所ではこれまでに開業されていない医師・歯科医師の方々の事業所得の確定申告サポートや税務調査のアドバイスをおこなってきた実績がございますので、お気軽にご相談いただければと思います。